ダイブプランの立て方|セルフダイビングで失敗しない計画の基本
ダイブプランとは、潜る前に「どこまで深く、何分潜り、残圧がいくつになったら戻るか」をバディと決めておく計画のことです。立て方の基本は、①最大深度と潜水時間を決める、②NDL(無減圧限界)に収まっているか確認する、③ガス計算でミニマムガス(最低限残す残圧)と折り返し残圧を決める、④はぐれた時・緊急時のルールを共有する、の4ステップ。この記事では、迷った時に立ち返れる原理原則から、1/3・1/2・全使用のガスルールの選び方、ミニマムガスの考え方まで、実際の数字を使って解説します。
この記事でわかること
- ダイブプランに必要な要素と、立て方の4ステップ
- 迷った時に立ち返る3つの原理原則
- NDL(無減圧限界)とガス計算・ミニマムガスの考え方
- ガスルール(1/3・1/2・全使用)の違いと選び方
- ブリーフィングでバディと共有すべきこと
ダイブプランに必要な5つの要素
ダイブプランと聞くと難しそうですが、決めることは実は5つだけです。
- 最大深度:今日どこまで深く行くか。Cカードの認定範囲(OWは18m、AOWは40mまでが目安)と、そのポイントの地形から決めます。
- 潜水時間:エントリーからエキジットまでの予定時間。NDLとガスの両方に収まる長さにします。
- ルートと折り返し:どこから入り、何を目印に進み、どこで折り返すか。「時間・残圧・目的地のどれかに達したら折り返す」と決めておきます。
- ガスの計画:開始残圧、折り返し残圧、浮上を開始する残圧(ミニマムガス)。この記事の中心テーマです。
- 緊急時のルール:はぐれたら1分探して浮上、エア切れの時は誰のオクトパスを使うか、など。
この5つを潜る前にバディと声に出して確認するのがブリーフィングです。逆に言えば、この5つが言えないままエントリーするのは「プランがない」状態です。
迷った時に立ち返る3つの原理原則
プランづくりで迷ったら、次の3つに立ち返ってください。ほとんどの疑問はこれで答えが出ます。
原則1. チームで最も保守的な数字に合わせる
バディとSACや経験が違う場合は、エアの消費が多い方・経験が浅い方・不安が大きい方に合わせます。ダイブプランはチームにひとつ。「自分はまだ余裕があるのに」と感じても、バディが折り返し残圧に達したら一緒に折り返します。
原則2. 「深く」と「長く」は同時に取れない
深く潜るほどNDLは短くなり、ガスの消費は速くなります。今日は深場の生物を見に行くのか、浅場でゆっくり長く潜るのか、目的をひとつに絞ると、深度も時間も自然に決まります。
原則3. プランは「守るため」ではなく「やめるため」の基準
計画の数字は達成目標ではなく、「ここに達したらやめる」という撤退ラインです。折り返し残圧に達したら、良い生物が出ていても戻る。時間が来たら、物足りなくても上がる。この「やめる基準を先に決めておく」ことこそがダイブプランの本質で、水中の楽しさに流されない唯一の方法です。
NDL(無減圧限界)を確認する
NDL(No Decompression Limit:無減圧限界)は、減圧停止をせずにその深度に滞在できる時間の上限です。深くなるほど急激に短くなります。レジャー用ダイブテーブルの目安は次のとおりです。
| 最大深度 | NDLの目安 |
|---|---|
| 12m | 147分 |
| 18m | 56分 |
| 20m | 45分 |
| 25m | 29分 |
| 30m | 20分 |
| 40m | 9分 |
計画潜水時間はNDLより余裕を持って短く設定します。実際の潜水中はダイブコンピューターの表示が優先ですが、「30mに行くなら20分も居られない」と事前に知っているかどうかで、プランの精度がまったく変わります。2本目以降は体に窒素が残っているためNDLはさらに短くなる点にも注意してください。
ガス計算の基本:SACと深度の関係
ガス計算に必要な数字は3つだけです。
- タンク容量:日本のレジャーでは10Lまたは12Lが主流(200bar充填が一般的)。
- SAC(呼吸消費率):水面換算で1分間に呼吸する空気の量。落ち着いたレジャーダイバーで12〜18L/分、不明なら15L/分を目安に。
- 深度による倍率:水深10mごとに周囲圧が1気圧増えるため、消費は水面の(深度÷10+1)倍になります。20mなら3倍、30mなら4倍です。
例:SAC15L/分の人が20m(3気圧)に居ると、毎分45Lを消費します。10Lタンクなら毎分4.5bar減る計算です。「深場では残圧計の減りが速い」の正体はこれです。自分のSACは、ログの「開始残圧−終了残圧」と平均深度から逆算できるので、数本分の平均を知っておくとプランの精度が上がります。
ミニマムガス:絶対に残す量を先に決める
ミニマムガス(ロックボトムとも呼びます)は、「最大深度でトラブルが起きても、バディと2人で安全に浮上しきれる量」のことです。次の3つの合計で決まります。
- 最大深度でトラブルに対処する時間(1分)
- 最大深度から安全停止深度(5m)まで、毎分9mでゆっくり浮上する間のガス
- 5mでの安全停止3分間のガス
これを2人分・ストレス時の速い呼吸(SAC×1.5倍)で計算します。エア切れのバディにオクトパスを渡したら、1本のタンクから2人で吸うからです。目安として、10Lタンク・SAC15L/分なら、18mで約40bar、30mで約60barがミニマムガスになります。よく聞く「50bar残して浮上」は、この計算を浅場向けに丸めた経験則です。深く潜る日ほど50barでは足りないことを覚えておいてください。
ガスルールの選び方:1/3・1/2・全使用
ミニマムガスが「絶対に残す量」だとすると、ガスルールは「使ってよい量の配分」を決めるルールです。ポイントの地形とルートで選びます。
| ルール | 使い方 | 折り返しの目安(200bar開始) | 向いている状況 |
|---|---|---|---|
| 全使用 (オールユーザブル) | ミニマムガスになるまで使う | 浮上開始 40〜60bar | いつでも真上に浮上できるポイント。ボートの真下、浅いビーチなど |
| 1/2ルール | 半分使ったら折り返す | 折り返し 100bar | 同じルートを往復する時。行きに使った分だけ帰りにも必要 |
| 1/3ルール | 1/3で行き、1/3で帰り、1/3残す | 折り返し 133bar前後 | エントリー地点まで戻るのが必須の時、流れがある時、保守的に潜りたい時 |
迷ったら次のように考えてください。「途中で真上に上がれないルートか?」→YESなら1/2以上。「帰りが向かい流れなど、行きより条件が悪くなり得るか?」→YESなら1/3。どのルールを選んでも、ミニマムガスを下回る計画は組めません。ルールで決めた折り返し残圧と、ミニマムガスの両方をブリーフィングで数字として共有しましょう。
迷った時の判断基準:5つの質問
プランがこれで良いか不安な時は、エントリー前に次の5つを自問してください。ひとつでも「いいえ」があれば、プランを浅く・短く・簡単な方に修正します。
- この深度と時間は、NDLとガスの両方に余裕を持って収まっているか?
- 折り返し残圧と浮上開始残圧を、バディと具体的な数字で共有したか?
- チームで一番不安のあるメンバーに合わせた計画になっているか?
- はぐれた時・エア切れの時に何をするか、即答できるか?
- 今日の海況(波・流れ・透明度)は、このプランの前提と合っているか?
そして大原則はひとつ、「迷ったら保守的な方を選ぶ」。深度で迷ったら浅い方、時間で迷ったら短い方、ルールで迷ったら1/3。ダイビングは何本でも潜り直せますが、無理をした1本はやり直せません。
ブリーフィングでバディと共有する
プランは頭の中にあるだけでは機能しません。エントリー前に、決めた数字を声に出して確認します。
- 最大深度と潜水時間(「最大18m、40分で上がろう」)
- 折り返し残圧と浮上開始残圧(「100barで折り返し、50barになったら浮上開始」)
- ルートと目印(「ロープ沿いに右回り、砂地の根で折り返し」)
- ハンドシグナルの確認(特に残圧の伝え方。ハンドシグナル一覧参照)
- はぐれた時のルール(「1分探して見つからなければ浮上、水面で合流」)
- 器材のバディチェック(手順はバディチェック(BWRAF)参照)
うみトモアプリの「ダイブプラン」機能を使うと、深度とタンク・SACを入れるだけでNDL・ミニマムガス・折り返し残圧が自動計算され、ブリーフィングと装備のチェックリストをバディとその場で共有できます。計画の考え方はこの記事で、計算はアプリで、と使い分けてください。
よくある質問
Q. ダイブコンピューターがあればダイブプランは不要では?
A. ダイブコンピューターは「今の状態」を教えてくれますが、「今日どう潜るか」は決めてくれません。プランで枠を決め、水中ではコンピューターの表示を優先して枠の内側で潜る、という関係です。また、ガスの計画(ミニマムガス・折り返し残圧)はコンピューターでは代替できません。
Q. 自分のSACがわかりません。どうすればいいですか?
A. まずは15L/分で計画してください。多くのレジャーダイバーは12〜18L/分に収まります。その上で、ログの「使った残圧×タンク容量÷潜水時間÷平均深度の気圧」で実測し、数本の平均値に置き換えていくと計画の精度が上がります。緊張する日や流れのある日は消費が増えるので、実測値より少し多めに見積もるのが安全です。
Q. 「50bar残して浮上」とミニマムガスはどう違うのですか?
A. 50barルールは浅場のレジャーダイビング向けの経験則で、ミニマムガスはそれを深度・タンク・呼吸量から計算で求めたものです。浅場では両者はほぼ一致しますが、25mを超えるようなダイビングでは50barでは足りない場合があります。深く潜る日ほど、計算したミニマムガスを使ってください。
Q. ガスルールはどれを選べばいいか、結局迷います。
A. 「途中でいつでも真上に浮上できるか」で決めるのが最短です。できるなら全使用、同じ道を往復するなら1/2、エントリー地点への帰還が必須・流れがある・不安があるなら1/3。迷ったらより保守的な1/3を選べば間違いありません。